はじめに|同じ「やりすぎ」でも中身は全く違う
美容医療では「ヒアルロン酸の入れすぎ(オーバーフィラー)」と 「ボツリヌストキシンで皮膚が壊れる」という話が、 同じように語られることがあります。 しかし、この2つは起こる現象も、医学的な意味合いも全く異なります。
オーバーフィラーとボツリヌストキシン影響の比較表
| 項目 | ヒアルロン酸のオーバーフィラー | ボツリヌストキシンの影響 |
|---|---|---|
| 主な問題点 | 物理的に入れすぎることによる 見た目の不自然さ | 筋活動低下に伴う 皮膚・筋の変化 |
| 起こる現象 | ・顔が重く見える ・平坦な印象 ・ボコつき・左右差 | ・筋萎縮 ・皮膚の菲薄化(報告あり) ・表情の乏しさ |
| 原因 | ・必要以上の量 ・線だけを見る設計 ・繰り返しの追加注入 | ・広範囲への反復注射 ・強すぎる筋抑制 ・長期連用 |
| 医学的評価 | 審美的問題が中心 (構造破壊ではない) | 生理的変化の一部として説明可能 (可逆性あり) |
| 不可逆性 | 原則なし (溶解・吸収が可能) | 原則なし (中止で回復傾向) |
| 誇張されがちな表現 | 「顔面崩壊」 「元に戻らない」 | 「皮膚が壊れる」 「老化が加速する」 |
| 実際の本質 | 量と設計の問題 | 使い方と範囲の問題 |
「破壊」という言葉が適切でない理由
どちらの治療も、「組織が不可逆的に破壊される」と証明された事実はありません。 ヒアルロン酸は分解・溶解が可能であり、 ボツリヌストキシンによる筋萎縮も、 中止すれば回復傾向を示すことが知られています。
本当に注意すべきポイント
- 1回1回の治療ではなく積み重ね
- 部分最適ではなく顔全体の設計
- 「足す」「止める」を繰り返す無計画さ
専門家としての結論
オーバーフィラーも、ボツリヌストキシンの影響も、 本質は「治療が悪い」のではなく、 考え方と設計が悪いことにあります。
美容医療で最も重要なのは、 やりすぎない仕組みを最初から作ることです。
ヒアルロン酸は「数か月で完全に消える」と思われがちですが、 実際には注入部位や製剤によって長期間残存することが報告されています。
MicheelsらはMRIを用いた研究で、 ヒアルロン酸フィラーが注入から2年以上経過しても 組織内に確認される症例があることを示しました。
(Micheels P. et al., Plastic and Reconstructive Surgery – Global Open, 2021)
オーバーフィラーとは、組織が破壊された状態ではなく、 物理的に「入りすぎている」状態であることを 理解する必要があります。
SNSなどでは「顔面崩壊」という強い言葉が使われることがありますが、 医学的にはそのような不可逆的変化を示す定義は存在しません。
Beerらのシステマティックレビューでは、 ヒアルロン酸フィラーによる長期的な問題の多くは 注入量や設計に起因する審美的な問題であり、 組織破壊を示すものではないとされています。
(Beer K. et al., Journal of Clinical Medicine, 2025)
ボツリヌストキシンについても、 「皮膚が壊れる」という表現が用いられることがありますが、 その多くは医学的な表現ではありません。
反復的なボツリヌストキシン注射により、 注射部位の筋活動低下や筋萎縮が起こる可能性は報告されているが、 中止後には回復傾向を示すとされています。
(Steenen S.A. et al., Journal of Cosmetic Dermatology, 2021)
これは不可逆的な「破壊」ではなく、 使われなくなった組織が変化する生理的反応として 説明されます。
ボツリヌストキシンの効果は永久ではなく、 一定期間で消失することが前提となっています。
美容目的で使用されるボツリヌストキシンA型の効果持続期間は 通常3〜5か月であり、 適切な間隔をあけた使用が推奨されています。
(Wright G. et al., British Dental Journal, 2018)
顔の老化は皮膚だけでなく、 脂肪・骨・筋の複合的な変化によって起こります。
RohrichとPessaは、 顔面には複数の脂肪コンパートメントが存在し、 加齢とともにそれぞれ異なる変化を示すことを明らかにしました。
(Rohrich R.J. & Pessa J.E., Plastic and Reconstructive Surgery, 2007)
そのため、短期的な変化だけを見た治療は、 長期的には不自然さにつながる可能性があります。
美容医療の満足度は、 結果そのものだけでなく、 治療前の期待値によって大きく左右されます。
Goodmanらは、 美容医療における満足度は 「結果」よりも「期待との一致度」に強く影響されると報告しています。
(Goodman G.J. et al., Aesthetic Surgery Journal, 2019)

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