はじめに|「ヒアルロン酸で顔が壊れる」という言葉について
近年、YouTubeやSNSで「ヒアルロン酸で顔が壊れる」「将来後悔する」といった 強い表現を用いた美容医療動画が増えています。 これらの表現は不安を煽る一方で、医学的にどこまで正しいのでしょうか。 本記事では、ヒアルロン酸注入による長期的影響について、 医学的エビデンスと心理学的視点の両面から整理します。
「顔面崩壊」は医学用語ではない
まず重要な点として、「顔面崩壊」という言葉は医学用語ではありません。 PubMedなどの医学データベースにおいても、 ヒアルロン酸注入が長期的に顔面構造を不可逆的に破壊する と結論づけた研究は存在しません。
ヒアルロン酸は本来、体内に存在する多糖類であり、 注入製剤も時間とともに分解・吸収される非永久フィラーです。
では、なぜ「顔が壊れる」と言われるのか
この表現の背景には、以下のような臨床的に知られた問題があります。
- 過剰注入による不自然なボリューム
- 表層への反復注入による凹凸・浮腫様変化
- 顔全体のバランスを無視した「足し算美容」
これらは顔が物理的に破壊されるというより、 「審美的に不自然になる」「患者満足度が低下する」 と表現する方が医学的には正確です。
医学的エビデンスの位置づけ
ヒアルロン酸注入の長期影響に関する研究は存在しますが、 その多くは以下のレベルに留まります。
- 症例報告(Case report)
- ナラティブレビュー
- 専門家の臨床的見解(Expert opinion)
MRIを用いた研究では、ヒアルロン酸が数年単位で残存する例が報告されていますが、 それが「顔面崩壊」につながるという因果関係は証明されていません。
「後悔」は医学より心理学の問題
美容医療における後悔は、治療そのものよりも 意思決定プロセスに強く依存します。
心理学的には、以下の要因が後悔と関連するとされています。
- 短期的満足を優先する意思決定
- 現状維持バイアスと損失回避
- 繰り返し治療による基準点の変化
これはヒアルロン酸特有の問題ではなく、 美容医療全般に共通する心理的現象です。
専門家としての結論
ヒアルロン酸注入が医学的に「顔を壊す」と証明された事実はありません。 一方で、過剰注入や不適切な治療計画によって、 審美的満足度が低下する可能性は否定できません。
重要なのは、「危険か安全か」という二元論ではなく、 どのような考え方で治療を選択するかです。
美容医療は「足す治療」ではなく、 顔全体のバランスと将来を見据えた医療であるべきだと考えます。
補足項目
足し算美容と引き算美容とは?
美容医療ではよく「足し算美容」「引き算美容」という言葉が使われます。 これは治療の良し悪しではなく、考え方の違いを表す言葉です。 初心者の方にもわかるように、短期・長期の視点で整理します。
足し算美容 vs 引き算美容|比較表
| 項目 | 足し算美容 | 引き算美容 |
|---|---|---|
| 考え方 | シワ・凹み・たるみを 「足して補う」 | 表情・重さ・下垂を 「減らして整える」 |
| 代表的な治療 | ・ヒアルロン酸注入 ・脂肪注入 | ・ボツリヌストキシン ・HIFU ・スレッド |
| 短期的メリット | ・変化が分かりやすい ・直後から満足感が出やすい ・イベント前に向く | ・自然な変化になりやすい ・周囲に気づかれにくい ・違和感が少ない |
| 短期的デメリット | ・入れすぎると不自然 ・左右差やボコつきが出ることがある | ・効果が分かりにくい ・即効性に欠けることがある |
| 長期的メリット | ・ボリュームロスの補正が可能 ・加齢変化を一時的にカバーできる | ・顔全体のバランスを保ちやすい ・「やっていない感」を維持しやすい |
| 長期的デメリット | ・繰り返すと重たい印象になることがある ・満足基準が上がりやすい ・修正が必要になる場合がある | ・加齢によるボリューム減少は補えない ・効果維持に継続治療が必要 |
| 向いている人 | ・明確な凹みが気になる ・短期間で変化を出したい | ・自然な若返りを求めたい ・長期的に後悔したくない |
初心者が知っておきたいポイント
足し算美容が「悪」、引き算美容が「正解」というわけではありません。 重要なのは、短期と長期の両方を考えた治療設計です。
多くの後悔は、「今の悩み」だけを見て治療を選び、 将来の顔全体の変化を想像できなかったことから生じます。
まとめ|どちらを選ぶべきか
美容医療において大切なのは、 「足すか、引くか」ではなく、 今の顔に何が本当に必要かを考えることです。
まずは引き算で整え、 必要な場合にのみ足し算を行う。 この順番が、長期的な満足につながりやすいと考えられています。
参考文献(References)
Kahneman D, Tversky A. Prospect Theory: An Analysis of Decision under Risk. Econometrica. 1979.
Micheels P, et al. Hyaluronic Acid Fillers Longevity: MRI Evaluation. Plast Reconstr Surg Glob Open. 2021.
Rohrich RJ, Pessa JE. The Fat Compartments of the Face. Plast Reconstr Surg. 2007.
Sundaram H, et al. Global Aesthetics Consensus: Hyaluronic Acid Fillers. Plast Reconstr Surg. 2018.
Goodman GJ, et al. Patient Satisfaction and Psychological Outcomes in Aesthetic Medicine. Aesthetic Surg J. 2019.

コメント