ヒアルロン酸注入と「失明リスク」 ― 知っていれば、守れる視力があります ―
ヒアルロン酸注入は、現在もっとも一般的に行われている美容医療のひとつです。 ほとんどの方が大きなトラブルなく施術を受けていますが、 ごく稀に「視力に関わる重い合併症」が報告されています。
大切なのは、過度に怖がることではなく、正しく知ること。 そして、もしものときに「すぐに気づいて、すぐに伝える」ことです。
ヒアルロン酸注入による失明は、どのくらいの頻度で起こる?
医学論文の報告を総合すると、 ヒアルロン酸注入による失明は極めて稀な合併症です。
- 重篤な血管合併症:おおよそ 0.01%未満
- 失明を含む視力障害:さらにその一部
多くのクリニックでは一度も経験しないまま診療を続けるほど稀ですが、 「ゼロではない」ことが医学的には分かっています。
なぜ失明が起こることがあるの?
非常にまれですが、ヒアルロン酸が誤って血管の中に入り、 眼につながる血管を詰まらせてしまうことがあります。
これは施術者の技術や注意だけで完全に防げるものではなく、 顔の血管構造の個人差も関係します。
患者さん自身が気づける「初期サイン」
もし次のような症状が施術中〜直後に出た場合、 遠慮せず、すぐに伝えてください。
- 片目が急に見えにくくなった
- 視野が欠けた、暗くなった
- チカチカ・白く霞む感じがする
- 強い目の奥の痛み
- 今までにない激しい痛み
「気のせいかも」「少し様子を見よう」 と思わず、必ずその場で伝えることが大切です。
発生までの時間はどれくらい?
医学的な報告では、視力障害は 注入中〜数分以内に起こることがほとんどです。
網膜(目の神経)は血流にとても弱く、 血が止まると数分で回復が難しくなることがあります。
だからこそ、 「すぐ気づく」「すぐ伝える」「すぐ対応する」 ことが、結果を大きく左右します。
医師だけでなく、患者さんの協力が重要です
医師は安全に最大限配慮して施術を行いますが、 患者さんの自覚症状は、医師には分かりません。
違和感を感じた瞬間に伝えていただくことで、 すぐに注入を止め、必要な対応を取ることができます。
安心して施術を受けるために
- リスクをきちんと説明してくれる医師を選ぶ
- 施術中は我慢せず、感じたことを伝える
- 「おかしい」と思ったら遠慮しない
ヒアルロン酸注入は、正しく行われれば有用な治療です。 そして、医師と患者が一緒に安全を守ることで、 そのリスクはさらに小さくなります。
※ 本記事は医学文献に基づく一般的な情報提供を目的としたものであり、 個別の診断や治療を代替するものではありません。
補足資料1
【補足資料】症例報告ベースで理解するヒアルロン酸注入による失明発生メカニズム
ヒアルロン酸注入による失明は極めて稀ではあるが、 症例報告および症例集積レビューの解析により、 発生メカニズムは一定の共通パターンを示すことが明らかになっている。
本資料では、報告症例に基づき、 失明がどのような経路で発生するのかを段階的に整理する。
① 動脈内誤注入(Intra-arterial Injection)
多くの症例報告において、失明の起点は ヒアルロン酸の動脈内誤注入である。
- 鼻背・鼻根
- 眉間(グラベラ)
- 前額
- ほうれい線上方
これらの部位では、皮膚血管と眼動脈系との交通が強く、 動脈走行の個体差も大きい。 吸引(アスピレーション)陰性であっても 血管内注入を完全に否定することはできない。
② 高圧注入による逆行性塞栓(Retrograde Embolization)
症例報告では、高圧または急速な注入が 失明発生に関与している可能性が繰り返し指摘されている。
- 注入圧が動脈血圧を上回る
- フィラーが血流に逆らって近位へ移動
- 注入停止後、血流再開により末梢へ押し戻される
この「逆行 → 再順行」の過程が、 眼動脈系への塞栓形成を引き起こすと考えられている。
③ 眼動脈・網膜動脈閉塞
報告症例で多く認められる閉塞部位は以下である。
- 中心網膜動脈
- 後毛様体動脈
- 眼動脈本幹
網膜は虚血耐性が極めて低く、 数分以内の血流遮断でも不可逆的な視覚障害を生じうる。
④ 皮膚症状と視覚症状の同時発生
多くの症例において、 皮膚症状と視覚症状が同時に出現する。
- 皮膚の蒼白・紫斑・網状皮斑
- 激しい疼痛
- 視野欠損・視力低下・失明
これは、同一動脈系内で 複数領域への塞栓が同時に発生していることを示唆する。
⑤ ヒアルロニダーゼの限界
症例報告では、ヒアルロニダーゼの早期投与により 皮膚壊死が回避された例がある一方で、 視力の完全回復は困難なケースが多い。
眼動脈・網膜動脈内に到達したヒアルロン酸は 投与経路・時間的制約のため、 分解が間に合わない可能性が高い。
⑥ 症例報告に共通するリスク因子
- 高リスク解剖部位での注入
- 高圧・急速注入
- ボーラス注入
- 高G’フィラーの使用
- 解剖理解・経験不足
- 緊急対応体制の不備
失明発生メカニズムの整理
- 動脈内誤注入
- 高圧による逆行性移動
- 眼動脈系への到達
- 血流再開による末梢塞栓
- 網膜虚血による不可逆的視覚障害
参考文献(代表例)
- Beleznay K, et al. Dermatologic Surgery
- Lazzeri D, et al. Plastic and Reconstructive Surgery
- Signorini M, et al. Plastic and Reconstructive Surgery
- Park KH, et al. American Journal of Ophthalmology
補足資料2
ヒアルロン酸注入における失明リスク低減のための注入条件
ヒアルロン酸注入による視力障害・失明は極めて稀ではあるが、 眼動脈系への逆行性塞栓により不可逆的転帰を取る可能性がある。 そのため、解剖学的理解と注入手技の最適化が不可欠である。
以下に、失明リスク低減に寄与すると考えられている注入条件を、 既存のレビュー・症例集積・コンセンサス文献に基づき整理する。
| 注入条件 | 医学的根拠・考え方 | 主な参考文献 |
|---|---|---|
| 少量ずつ分割注入 | 網膜動脈塞栓は0.1mL未満でも発生し得るが、 一度に大量注入することで逆行性塞栓のリスクが高まる。 微量・段階的注入により、血管内誤注入時の影響を最小化できる可能性がある。 | Beleznay K, et al. Dermatologic Surgery |
| 低圧・ゆっくりとした注入 | 高圧注入は血流に逆らって塞栓物質を眼動脈方向へ押し出す要因となる。 注入圧を下げることで、逆行性移動の物理的条件を抑制できる。 | Signorini M, et al. Plastic and Reconstructive Surgery |
| 鈍針(カニューレ)の選択 | カニューレは鋭針と比較し血管穿刺リスクを低減する可能性が示唆されている。 ただし完全に安全ではなく、注入圧・深度管理が前提となる。 | Alam M, et al. Aesthetic Surgery Journal |
| 注入前の逆血確認(アスピレーション) | 血管内留置の可能性を確認する一手段。 偽陰性があり完全な予防策ではないが、 多層的リスク管理の一要素として推奨される。 | Carruthers A, Carruthers J. Journal of the American Academy of Dermatology |
| 解剖学的リスク部位の把握 | 鼻背、グラベラ、前額、眼窩周囲は 眼動脈系との交通が強く、特に慎重な手技が求められる。 層・方向・進入点の理解が不可欠。 | Beleznay K, et al. Dermatologic Surgery |
| ヒアルロニダーゼ即応体制 | 血管塞栓が疑われた場合、迅速なヒアルロニダーゼ投与が 皮膚壊死・視機能障害の重症化抑制に寄与する可能性がある。 | Signorini M, et al. Global Aesthetics Consensus |
臨床的補足
- 失明リスクは「部位」単独ではなく、注入圧・量・深度・術者因子の複合で決定される
- すべての予防策を講じてもリスクはゼロにはならない
- 重要なのは「起こさない努力」と「起きた場合の即時対応」
※ 本資料は医学文献に基づく一般的知見の整理であり、 特定の手技・製剤の安全性を保証するものではない。

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