なぜ「やりすぎた顔」は戻らないのか
── 上級者向け・不可逆変化の話
第1回では、
たるみ治療が「引き上げ」ではなく
構造への介入であることを整理しました。
第2回では、
長期エビデンスを通して、
時間が経ったあとに組織へ何が残るのか
を見てきました。
第3回では、
さらに踏み込み、
なぜ「やりすぎた顔」は元に戻らないのか
という問いを扱います。
「老けた」のではなく「変わった」
美容医療後に、
「急に老けたように見える」
と感じる症例があります。
重要なのは、
これは加齢が急激に進んだわけではない
という点です。
多くの場合、起きているのは、
組織構造の変化が表情や質感に現れた結果
だと考えられます。
不可逆変化とは何か
不可逆変化とは、
時間を戻しても元の状態には戻らない変化
を指します。
切開手術では、
組織の切離・再固定が行われ、
これは構造的に不可逆です。
一方、糸リフトやHIFUのような
「切らない治療」でも、
線維化や組織硬化といった不可逆的要素
が起こり得ます。
HIFU後の組織学的変化については、
Whiteらが、
タンパク変性や線維化を伴う反応を報告しています。
(White WM et al., Aesthetic Surgery Journal)
なぜ「やりすぎ」は修正できないのか
多くの人は、
「効きすぎたら戻せばいい」
と考えがちです。
しかし実際には、
減らすことはできても、
元の構造には戻せない
ケースがほとんどです。
糸リフトを繰り返した症例で、
手術時に支持組織の線維化や硬化が
観察されたという報告もあります。
(Sulamanidze M et al., Aesthetic Plastic Surgery)
これは、
治療が「失敗した」のではなく、
治療の痕跡が組織に残った
結果だといえます。
「切らない治療=安全」という誤解
HIFUや糸リフトは、
「切らない」「ダウンタイムが少ない」
という言葉で語られます。
しかし、
システマティックレビューでは、
HIFUの長期的影響については
十分なデータが存在しない
と明記されています。
(Vachiramon V et al., Lasers in Medical Science)
安全に見える治療ほど、
変化が見えにくいまま蓄積する
可能性があります。
医師の倫理と「止める」という選択
美容医療において、
最も難しい判断のひとつは、
「やらない」「止める」
という決断です。
回数制限に明確な数字が存在しない以上、
医師は、
- これまでの治療歴
- 組織の質感や反応
- 今後起こり得る不可逆変化
これらを踏まえて、
将来を見据えた判断をする必要があります。
なぜ「急に老けた芸能人」が生まれるのか
芸能人が「急に老けた」と言われる背景には、
露出の多さだけでなく、
治療の蓄積が一気に可視化される瞬間
があります。
これは特別な話ではなく、
一般の人にも起こり得る現象です。
老化ではなく、
不可逆変化が表面化した結果
と考えると理解しやすいでしょう。
まとめ
- 「やりすぎ顔」は老化ではなく構造変化
- 切らない治療でも不可逆変化は起こり得る
- 回数制限は科学ではなく時間軸の判断
- 最も重要なのは「止める勇気」
美容医療は、
今を良くする医療であると同時に、
未来を壊さない医療でなければならない
と私は考えています。
参考論文一覧(本記事で使用したもの)
| 論文名 | 要約(本記事との関連) |
|---|---|
| White WM et al. Selective Photothermolysis Revisited: Adverse Effects of Noninvasive Skin Tightening Devices Aesthetic Surgery Journal | HIFUなどの非侵襲的タイトニング治療により、真皮・皮下組織でタンパク変性や線維化が生じうることを報告。 表面的には安全に見える治療でも、組織レベルでは不可逆的変化が起こり得る点を示している。 |
| Sulamanidze M et al. Facial Thread Lifting: Indications, Techniques, and Complications Aesthetic Plastic Surgery | 糸リフトを繰り返した症例において、支持組織の線維化や瘢痕形成が観察されることを報告。 糸を抜去しても組織構造そのものは元に戻らない可能性を示唆している。 |
| Vachiramon V et al. High-Intensity Focused Ultrasound for Facial Skin Tightening: A Systematic Review Lasers in Medical Science | HIFUの有効性と短期安全性は示されている一方、長期的影響や反復治療の安全性については 十分なエビデンスが存在しないと結論づけている。 |

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