美容医療は「目的」で分けると見失わない
美容医療はひとまとめに語られがちですが、 実際には目的が変われば、医療の性質も正反対になります。
本記事では、美容医療を次の三段階に分けて整理します。
- ① 可愛くなる医療
- ② 若返る医療
- ③ 年齢に対して自然な美しさを作る医療
① 可愛くなる|足し算と形の設計の医療
主に10代後半〜20代で選ばれることが多いのが、 「可愛くなる」ことを目的とした美容医療です。
このフェーズの本質は、
- 足し算の医療
- 形を作る医療
- 完成形を目指す医療
二重整形、ヒアルロン酸による輪郭形成、豊胸、婦人科形成などは、 老化を止めるためではなく「どう見せたいか」を作るための医療です。
ここで重要なのは、
老化はまだ始まっていない。 だから「戻す」のではなく「作る」医療である。
② 若返る|老化に抗う医療
30代以降になると、多くの人が 「以前より疲れて見える」「老けた気がする」 と感じ始めます。
ここからが若返りを目的とした美容医療の領域です。
- 老化の進行を遅らせる
- 構造の崩れを補正する
- やりすぎない設計が重要
ボトックスによる表情ジワ管理、HIFUや高周波治療、 支持目的のヒアルロン酸などが代表例です。
Aging is not reversed. しかし、進行は設計できる。
この段階で「可愛くなる医療」を続けてしまうと、 違和感や過剰治療が起こりやすくなります。
③ 年齢に対して自然な美しさを作る|設計と撤退の医療
40代後半以降になると、 美容医療の価値は「若く見せる」ことから 「不自然に見せない」ことへ移行します。
このフェーズの医療の本質は、
- やらない判断
- 回数を制限する設計
- 将来の余白を守ること
治療を重ねるほど若くなるわけではありません。 むしろ、今の選択が10年後を縛ることもあります。
上手い医師ほど、止め方を知っている。
回数制限は縛りではなく、 自然な美しさへ向かうための出口です。
美容医療は直線ではなく、段階で変わる
可愛くなる医療、若返る医療、年齢に寄り添う医療は、 優劣ではありません。
その人の時間軸の中で、役割が変わるだけです。
自分はいま、どの段階にいるのか。 そして、次に何を選ぶのか。
それを考えること自体が、 最も質の高い美容医療の入り口だと考えています。
ヒアルロン酸注入と糸リフトを例に視覚化
| フェーズ(縦軸) | ヒアルロン酸注入 | 糸リフト |
|---|---|---|
| 老化予防 (基盤レイヤー) | 目的:構造維持・将来の崩れ予防 効果:深部支持・骨格変化の緩和 限界:見た目の変化は乏しい 注意:量・部位を誤ると予防にならない | 目的:基本的には適応外 効果:ほぼなし 限界:予防効果のエビデンスは乏しい 注意:「早期介入=予防」という誤解 |
| ① 可愛くなる (造形・足し算) | 目的:形・立体感・印象設計 効果:即時性・完成形を作れる 限界:老化抑制効果はない 注意:若返り目的で使うと破綻しやすい | 目的:基本的には不向き 効果:一時的な引き締まり感 限界:造形には向かない 注意:将来の皮膚ダメージ |
| ② 若返る (老化に抗う) | 目的:支持構造の補正・影の改善 効果:疲労感・老け感の改善 限界:入れすぎると不自然 注意:足し算ではなく補正意識 | 目的:下垂による老け感の改善 効果:一時的な引き上げ効果 限界:持続性は限定的 注意:回数が将来を縛る |
| ③ 年齢に対して 自然な美しさ (設計・撤退) | 目的:最小限の構造維持 効果:やらない選択が価値 限界:変化は実感しにくい 注意:過去の入れすぎの修正が主になる | 目的:原則として卒業 効果:満足度は低下しがち 限界:副作用が利益を上回る 注意:ここで続けると不自然化 |
補足資料|糸リフトは抗老化に役立つのか?
糸リフトは「引き上げ治療」として語られることが多い一方で、
抗老化(アンチエイジング)への寄与については、 現在も議論が続いています。
現時点で分かっていること
- 糸を皮下に挿入すると、局所でコラーゲン生成が誘導されることが、 ヒト臨床例や基礎研究で報告されている
- 超音波評価や組織学的評価により、 糸周囲の皮膚構造の変化が確認されている
- 動物モデルでは、コラーゲン密度やタイプ比が 若年側に近づく変化を示した研究も存在する
代表的な研究報告
Effect of PDO facelift threads on facial skin tissues: An ultrasonographic analysis
PDO糸挿入後、ヒト顔面皮膚において 糸周囲のコラーゲン形成と皮膚状態改善が 超音波評価で確認された。
Enhancing dermal collagen density towards youthfulness: A comparative study of thread implantation in aging rats
動物モデルにおいて、PDO・PLLA・PCL糸の挿入が 真皮コラーゲン密度およびコラーゲンタイプ比に影響を与えた。
注意すべき点
- これらの研究は「老化そのものを止める」ことを証明したものではない
- 糸挿入後の線維化や瘢痕様変化は、 抗老化効果ではなく組織修復反応と解釈される
- 長期的に老化進行を抑制したとする 高品質な前向き臨床研究は現時点では不足している
結論(補足資料としての位置づけ)
糸リフトが抗老化に寄与する可能性は、
「完全に否定できるものではない」。
しかし現時点では、
補助的・限定的な皮膚リモデリング作用として 慎重に評価されるべき段階である。
したがって糸リフトは、
老化予防の主軸となる治療ではなく、
適切な症例・回数・目的設定のもとでのみ、 補助的に位置づけられるべき医療と考えられる。

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