第1回|断食で「何が起きている」と勘違いしているのか
近年、「断食=脂肪燃焼」「食べなければ痩せる」という言説が当たり前のように語られています。 しかしこの理解は、体内で起きている現象を大きく取り違えています。
この第1回では、断食によって起きる体重減少の正体を分解し、 なぜ人は「痩せた」と錯覚してしまうのか、その構造を整理します。
体重減少の正体は3つしかない
体重が減ったとき、体内で起きている変化は以下の3つに必ず分類できます。
- 水分(体液・グリコーゲンに結合した水)
- 脂肪(中性脂肪として蓄積されたエネルギー)
- 筋肉(主に筋タンパク質)
重要なのは、「体重が減った」という事実だけでは、 どれが減ったのかは一切わからないという点です。
断食で最初に減るのは「脂肪」ではない
断食を始めて数日以内に体重が大きく落ちる場合、 その大半は水分とグリコーゲンの枯渇です。
筋肉や肝臓に蓄えられているグリコーゲンは、 1gあたり約3〜4gの水分と結合しています。
つまり、グリコーゲンを使い切るだけで、 数kg単位の体重減少が「一瞬で」起きるのです。
この段階では、脂肪はほとんど減っていません。
「減った」と「痩せた」は全く別の概念
ここで重要な区別があります。
- 減った:体重計の数字が下がった
- 痩せた:体脂肪が減り、体組成が改善した
断食で起きやすいのは前者だけです。
体重は減っても、脂肪はほとんど減らず、 場合によっては筋肉が優先的に分解されることすらあります。
これを「痩せた」と呼ぶのは、 結果と原因を取り違えた認識です。
なぜ断食は「効果があるように見える」のか
断食が強烈な成功体験に見える理由は、次の3点に集約されます。
- 短期間で体重が大きく落ちる
- 空腹=脂肪が燃えているという直感的誤解
- リバウンド前の一時的な軽さ
しかしこれは、体が「作らない・守らないモード」に入った結果にすぎません。
次回以降で詳しく解説しますが、 断食中の体内はアナボリック(合成)ではなく、明確にカタボリック(分解)です。
このシリーズで何を明らかにするのか
このシリーズでは、
- なぜ断食=脂肪燃焼ではないのか
- アナボリックとカタボリックの本当の意味
- 筋肉・脂肪・代謝がどう制御されているのか
を分子・ホルモン・代謝経路レベルで解体していきます。
次回は、mTORとAMPKを軸に、 「体がいつ成長を止め、いつ分解を始めるのか」を解説します。
第1回で理解すべきポイントまとめ
| 項目 | 正しい理解 | よくある誤解 |
|---|---|---|
| 体重減少の内訳 | 体重減少は「水分・脂肪・筋肉」のいずれか(または複合) | 体重が減った=脂肪が減った |
| 断食初期の変化 | 最初に減るのは主にグリコーゲンとそれに結合した水分 | 断食を始めた瞬間から脂肪が燃えている |
| 水分の影響 | グリコーゲン1gにつき約3〜4gの水分が失われる | 数kgの減少=脂肪が数kg減った |
| 「減った」と「痩せた」 | 体重減少と体脂肪減少は別の現象 | 体重計の数字=体脂肪の変化 |
| 筋肉の扱い | 断食中は筋肉が分解対象になりやすい | 脂肪だけが都合よく減る |
| 断食の「効果」 | 短期的な体重減少が成功体験として錯覚を生む | 断食は効率的な脂肪燃焼法 |
| 代謝状態 | 断食中の体はカタボリック(分解優位) | 空腹=成長・改善が進む |
| シリーズ全体の視点 | 体組成はホルモン・シグナル経路で制御されている | 気合や根性で体は変わる |


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