第3回|カタボリックとアナボリックの誤解
ここまでの2回で、断食中の体が mTOR OFF / AMPK ONという 「作らない・守らない状態」に入ることを説明しました。
この流れで多くの人が次に抱く疑問が、
「じゃあカタボリックは悪なのか?」
というものです。
第3回では、この問いに対して YESでもNOでもない、正確な答えを提示します。
カタボリックとアナボリックは善悪ではない
まず大前提として理解すべきことがあります。
- アナボリック:作る・合成する
- カタボリック:壊す・分解する
これは善悪ではなく、 生体にとって必要な両輪です。
問題は「分解があること」ではなく、 どの分解が、いつ、どれくらい起きるかです。
必要なカタボリックとは何か
体は常に、古くなったもの・壊れたものを分解しています。
- 損傷した筋タンパク質
- 機能しないタンパク質
- 不要になった細胞構造
これらを分解しなければ、 新しい合成も起きません。
トレーニングによる筋損傷 → 修復 → 超回復 この一連の流れも、 「制御されたカタボリック」が前提です。
壊れるカタボリックとは何か
一方で、問題となるのが次のような状態です。
- エネルギー不足
- アミノ酸不足
- 回復シグナルの欠如
この条件下で起きるカタボリックは、
「不要なものを壊す」のではなく 「生きるために必要なものを削る」
方向に進みます。
筋肉は、体にとって最大のアミノ酸貯蔵庫です。
そのため非常時には、 最優先で分解対象になります。
筋肉が削られる条件
筋肉が守られなくなる条件は、実は非常にシンプルです。
- mTORが活性化できない
- AMPKが優位
- アミノ酸が外部から供給されない
この3つが揃ったとき、 筋肉は「残す理由」を失います。
体は合理的です。
成長も回復もしない環境で、 エネルギーコストの高い筋肉を 維持する理由はありません。
なぜ断食は“削りやすい”のか
断食は、筋肉を削る条件を ほぼ完璧に満たします。
- エネルギー供給:停止
- アミノ酸供給:停止
- インスリン:低下
- mTOR:OFF
- AMPK:ON
これは脂肪だけを狙い撃ちする状況ではありません。
「削れるものは全て使う」 それが断食中の体の本音です。
アナボリックは「勝手に起きる」ものではない
ここで重要な誤解を1つ修正します。
アナボリックは、 空腹の反対側に自然発生する状態ではありません。
それは、
- 十分なエネルギー
- 十分な材料
- 適切な刺激
が揃ったときにのみ、 意図的に作られる状態です。
まとめ
カタボリックそのものは悪ではありません。
しかし、
制御されたカタボリック → 成長の前提 制御を失ったカタボリック → 筋肉喪失
この違いを理解しないまま、 「断食=デトックス」「空腹=正義」 と考えるのは、 生理学的に雑すぎると言えます。
次回は、 筋肉分解の最終実行部隊 「ユビキチン–プロテアソーム系」 を解説し、 「なぜ筋肉は実際に削られるのか」を分子レベルで追います。
第3回|カタボリック理解のための整理表
| 項目 | 必要なカタボリック | 破壊的カタボリック |
|---|---|---|
| 目的 | 修復・更新・適応のための分解 | 生存のための強制的な資源回収 |
| 発生条件 | 十分なエネルギーと回復環境が前提 | エネルギー・栄養の欠乏 |
| mTOR | 最終的にONになる | OFFのまま |
| AMPK | 一時的または軽度 | 慢性的に優位 |
| 主な分解対象 | 損傷・老化したタンパク質 | 筋タンパク質を含む「使える資源」 |
| 筋肉への影響 | 結果的に筋肥大・維持に寄与 | 筋量低下・筋力低下 |
| 回復シグナル | 存在する(栄養・インスリンなど) | 欠如している |
| 時間軸 | 短期・制御された範囲 | 長期・制御不能 |
| 代表例 | トレーニング後の筋損傷処理 | 断食・極端なカロリー制限 |
| 誤解されやすい点 | 「分解=悪」と誤解される | 「脂肪だけが削られる」と誤解される |

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