第5回|基礎代謝は本当に落ちるのか
減量や断食の話題で、ほぼ必ず出てくる言葉があります。
「基礎代謝が落ちた」
しかしこの言葉は、 かなり曖昧なまま使われているのが現実です。
第5回では、
- 基礎代謝とは何か
- 本当に落ちているのはどこなのか
- なぜ「代謝が壊れた」と感じるのか
を、感覚ではなく構造と数字で整理します。
基礎代謝(BMR)の正しい定義
基礎代謝(Basal Metabolic Rate, BMR)とは、
「生命維持のために最低限必要なエネルギー消費」
です。
具体的には、
- 呼吸
- 心拍
- 体温維持
- 臓器・神経の維持
といった、 意識や行動とは無関係な消費を指します。
つまりBMRは、 「何もしないときの最低ライン」です。
1日の消費カロリーの内訳を思い出す
ここで改めて、 総消費カロリー(TDEE)の構造を確認します。
- 基礎代謝(BMR)
- NEAT(無意識活動量)
- 運動による消費
- 食事誘発性熱産生(DIT)
多くの人が「代謝が落ちた」と感じるとき、
このどこが変わっているのかを 正確に区別できていません。
実際に「落ちやすい」のはどこか
結論から言います。
短期的に大きく落ちるのは 基礎代謝ではありません。
最も調整されやすいのは、
- NEAT
- DIT
です。
これらは、
- 摂取量
- エネルギー状態
に応じて、 静かに・自動的に下げられます。
結果として、
「以前と同じように食べていないのに減らない」
という感覚が生まれます。
では基礎代謝は本当に変わらないのか
ここで重要な補足があります。
基礎代謝は「全く変わらない」わけではありません。
ただし変化には条件があります。
- 筋肉量の減少
- 臓器サイズ・活動の低下
- 甲状腺ホルモンなどの低下
これらが起きたとき、 初めてBMRは構造的に下がります。
筋肉・神経・ホルモンの関係
基礎代謝は、 単に筋肉量だけで決まるわけではありません。
実際には、
- 筋肉(維持コスト)
- 脳・神経系
- 肝臓・腎臓などの臓器
- 甲状腺ホルモン
といった、 高コスト組織と制御系の集合体です。
断食や極端な制限が長期化すると、
- 筋肉が削られる
- 神経活動が抑制される
- ホルモン分泌が下方修正される
結果として、 「本当にBMRが下がった状態」 に移行します。
「代謝が壊れた」と感じる正体
多くの場合、
代謝が壊れたのではなく 体が合理的に適応しただけ
です。
短期:
- NEAT低下
- DIT低下
長期・過激:
- 筋肉量低下
- ホルモン低下
この順序を理解せずに、
「もっと削ればいい」
と進むと、 本当に回復しにくい状態 に入ります。
まとめ
基礎代謝は、
- 簡単には落ちない
- しかし守らなければ落ちる
という、 両立した性質を持っています。
「代謝が落ちた」という言葉で一括りにせず、
何が落ちているのか なぜ落ちたのか どこまでが可逆なのか
を分解して考えることが、 体組成改善の設計には不可欠です。
次回は、 ここまでの全要素を統合し、 「削らずに変える設計」 を提示します。
断食中に起こる基礎代謝低下のフェーズ別構造
| フェーズ | 主な期間 | 体内で起きていること | BMRへの影響 | 本質的な理解 |
|---|---|---|---|---|
| Phase 1 | 〜3日 | ・グリコーゲン枯渇 ・水分喪失 ・インスリン低下 ・AMPK優位化 | ほぼ変化なし (見かけ上は低下したように感じる) | 落ちているのは NEAT・DIT BMRではない |
| Phase 2 | 3〜7日 | ・筋タンパク質分解開始 ・UPS活性増加 ・甲状腺ホルモン低下傾向 ・神経活動の省エネ化 | 軽度〜中等度の BMR低下リスクが出始める | 可逆性はまだ高いが 構造変化が始まる段階 |
| Phase 3 | 7日以降 | ・筋量の実質的減少 ・臓器活動レベル低下 ・甲状腺ホルモン抑制 ・慢性的AMPK優位 | 明確なBMR低下 (回復に時間がかかる) | 生存適応としての代謝再設計 「代謝が壊れた」と感じる領域 |

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