【第五回】断食若返りの誤解を解く

断食は若返りか、それとも寿命の前借りか

断食は、
しばしば「若返りの方法」として語られる。

オートファジー、
インスリン低下、
細胞のリセット。

確かに、
断食が体に与えるプラスの側面は存在する。

だが同時に、
断食は老化を加速させる行為にもなり得る。

この矛盾を解かない限り、
断食は「健康法」ではなく
賭けになる。


なぜ断食は若返ると言われるのか

断食が注目される最大の理由は、

  • インスリンが下がる
  • mTORが抑制される
  • オートファジーが活性化する

といった
細胞レベルの若返り現象が起こるからだ。

短期間の断食では、

  • 傷んだタンパク質の除去
  • ミトコンドリアの入れ替え
  • 炎症の一時的低下

が起こり、

「体が軽くなる」
「頭が冴える」

と感じる人も多い。

問題は、
これを恒常的な若返りと誤解してしまうことだ。


糖代謝だけで生きた場合の限界

人間の体は、
本来「糖代謝」を主軸に設計されている。

糖は、

  • 即効性が高く
  • 制御しやすく
  • 成長・修復に向いている

一方で、

  • 血糖変動
  • インスリン負荷
  • 炎症

を起こしやすい。

糖代謝“だけ”に依存した生活は、

  • 速く走れるが
  • 消耗も早い

つまり、
老化速度が上がりやすい


ケトン代謝を「加える」意味

断食の本質は、
糖を捨てることではない。

ケトン代謝という
第二のエンジンを使えるようにすること
だ。

ケトン代謝は、

  • エネルギー効率が高く
  • 炎症を起こしにくく
  • 修復系を刺激する

糖代謝に「追加」されることで、

  • 代謝の柔軟性
  • 老化耐性

が高まる。

重要なのは、

糖 → ケトンの切り替えができる体

であって、
常にケトンで走る体ではない。


自動車と走行年数の比喩

ここで、
体を「自動車」に例えてみる。

実際に体には、糖で走る常備の車と

ケトンで走る予備の車が存在する。

糖代謝の車だけを使うと

  • 高回転
  • 高出力
  • 部品の摩耗が早い

短距離は速いが、
走行可能年数は短い。


糖代謝の車+ケトン代謝の車を効率よく使う

  • 糖代謝の車をメンテナンスし、いつでも最高効率で走らせる
  • ケトン代謝をメンテナンスし、いつでも最高効率で走らせる
  • 結果、長時間走行し、長距離に耐えることができる

結果として、
総走行年数が伸びる


ケトン代謝の車しか使わない

  • 低燃費だが
  • 馬力不足
  • 部品交換ができない

長くは走れない。

断食のやりすぎは、
この状態に近い。


断食をやりすぎると老化する理由

断食を長期間・高頻度で続けると、

  • 筋肉量の低下
  • ホルモン低下
  • 免疫抑制
  • 修復材料の不足

が起こる。

これは、

老化のブレーキと
老化そのものを
同時に踏んでいる状態

だ。

若い体では、
多少の無理も修復できる。

だが年齢とともに、

  • 回復が追いつかず
  • ダメージが固定化し

断食が老化加速因子に変わる。


断食は「切り替え」であって「常態」ではない

断食の正しい位置づけは、

  • 若返りの魔法でも
  • 生き方そのものでもない

代謝を切り替えるためのスイッチだ。

  • 常に入れっぱなしにしない
  • 必要なときに使う
  • 戻る前提で行う

これができて初めて、
断食は老化制御として成立する。


次回予告

次回は、
断食と並んで誤解されやすいテーマ、

カロリー制限は
どこまで老化を遅らせるのか

を扱う。

「少ないほど長生き」という
単純な話ではない理由を解説する。


第5回補足コラム

断食と老化制御のエビデンス

― 時間制限断食と、やってはいけない断食 ―

断食は、老化制御の文脈で語られることが非常に多い。
「オートファジー」「若返り」「寿命延長」
── どれも一部は事実であり、一部は誤解だ。

この補足コラムでは、
何が分かっていて、何が危険なのかを整理する。


1. なぜ断食は「若返る」と言われるのか

断食の効果として、科学的に支持されているのは主に以下だ。

  • インスリン分泌の低下
  • mTORシグナルの抑制
  • オートファジーの活性化
  • 炎症マーカーの低下
  • ミトコンドリア機能の改善

これらはすべて
**「老化速度を一時的に下げる方向」**に働く。

重要なのは、
断食が「若返らせる」のではなく
老化の進行を一時的に減速させる点にある。


2. 時間制限断食(TRF)のエビデンス

現在、人間で比較的安全性と有効性が確認されているのは
**時間制限断食(Time-Restricted Feeding)**である。

代表例:

  • 16:8(16時間断食/8時間摂食)
  • 14:10(より穏やか)

確認されている効果:

  • インスリン感受性の改善
  • 内臓脂肪の減少
  • 軽度の炎症低下
  • 体内時計(概日リズム)の正常化

👉 ポイント
「何を食べないか」より「いつ食べるか」

これは老化制御として非常に合理的だ。


3. 断食=ケトン代謝への「切り替え」

通常の食生活では、
人はほぼ一生を糖代謝モードで生きる。

断食はここに
ケトン代謝という別の回路を一時的に使わせる

よく使われる比喩がこれだ。

同じエンジンで走り続ける車より
定期的にエンジンを切り替える車の方が
トータルの耐久年数は伸びやすい

断食は
ケトン代謝を「加える」行為であって
糖代謝を捨てることではない。


4. 断食をやりすぎると、なぜ老化するのか

ここが最も重要な誤解だ。

断食は
適量なら老化速度を下げるが、過剰だと老化を加速させる。

理由は明確だ。

  • 慢性的なエネルギー不足
  • 筋肉量の減少
  • 甲状腺ホルモン低下
  • 性ホルモン低下
  • 修復材料(アミノ酸・微量栄養素)の不足

これらはすべて
修復速度を落とし、不可逆老化を進める

特に注意が必要なのは:

  • 長期の完全断食
  • 極端な低カロリー状態の常態化
  • 体脂肪率が低い人の断食
  • 女性・中高年での過剰断食

断食は
刺激であって、基礎ではない。


5. 「やってはいけない断食」の特徴

老化制御の観点で、危険なのは次の断食だ。

  • 常に空腹状態を維持する
  • 断食中も高ストレス・高活動
  • 回復期(リフィード)を設けない
  • 栄養密度の低い食事
  • 体重・筋肉が落ち続けているのに継続

これは
老化制御ではなく、老化促進である。


6. 断食の本質は「切り替え能力」

断食で本当に重要なのは、

  • 断食できること
  • 食べられること
  • すぐ戻れること

この代謝の柔軟性だ。

断食を「やっている人」ではなく
断食に振り回されない体が目標。


まとめ

  • 断食は若返りではない
  • 老化速度を一時的に下げる「介入」
  • 時間制限断食が最も現実的
  • やりすぎると確実に老化する
  • 断食は「常態」ではなく「切り替え」

老化制御とは、
極端な方法を選ぶことではない。

老化と矛盾しない生活設計を作ることだ。


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