「今きれい」より「将来後悔しない」医学論文から考えるヒアルロン酸とボトックス治療

10年後に後悔しないための美容医療の考え方
― ヒアルロン酸とボトックスを医学的根拠から考える ―

美容医療は「今きれいになる」ためのもの、と思われがちです。 しかし実際には、どの治療を・いつ・どの程度行うかによって、 数年後、10年後の顔や肌の印象に大きな差が出ることが分かっています。

本記事では、ヒアルロン酸注入やボツリヌストキシン治療(ボトックス)について、 感覚的な話ではなく、医学論文を根拠にしながら、 長期的な視点での美容医療の考え方を整理します。

ヒアルロン酸注入とボツリヌストキシン治療の違い

美容医療が初めての方にとって、 「ヒアルロン酸」と「ボトックス(ボツリヌストキシン)」の違いは とても分かりにくいものです。

この2つは目的も働き方もまったく異なる治療です。 以下の表で、基本的な違いを整理します。

比較項目ヒアルロン酸注入ボツリヌストキシン治療
(ボトックス)
目的失われたボリュームを補う
顔を支える・形を整える
筋肉の動きを弱めて
シワをできにくくする
どう効く?ジェル状の製剤が
内側から支える
筋肉の動きを一時的に抑える
主に使う部位ほうれい線、こめかみ、頬、顎、唇など額、眉間、目尻、エラなど
即効性施術直後から変化を感じやすい数日〜1週間ほどで効果が出る
効果の持続数か月〜2年程度(製剤・部位による)約3〜5か月
元に戻る?徐々に体内で分解・吸収される時間とともに効果が消える
向いている人・老けて見える原因が「凹み」や「たるみ」の人
・輪郭を整えたい人
・表情ジワが気になる人
・シワを予防したい人
注意点入れすぎると不自然になりやすい
将来を考えた量と計画が重要
効きすぎると表情が硬くなることがある

大切なのは、 「どちらが良いか」ではなく、 自分の悩みに合っているかどうかです。

美容医療は、その場の変化だけでなく、 数年後・10年後を見据えて選ぶことが後悔しないポイントです。


ヒアルロン酸とボトックスは「目的が違う」治療

まず重要なのは、ヒアルロン酸とボトックスは 全く異なる目的の治療であるという点です。

  • ヒアルロン酸注入:組織のボリューム補填、支持構造の補強、輪郭形成
  • ボツリヌストキシン治療:筋肉の過剰な収縮を抑え、表情ジワを軽減

「どちらが良い・悪い」という話ではなく、 老化のどの要素に介入するかが選択の基準になります。


ボツリヌストキシン治療の持続と長期的影響

ボツリヌストキシン治療の効果持続期間は、 複数のレビュー論文において おおよそ3〜5か月と報告されています。

Wrightらの総説では、美容目的で使用されたボツリヌストキシンの 効果持続は一過性であり、定期的な再投与が必要であることが示されています。

Wright G, et al. A review of the longevity of effect of botulinum toxin in wrinkle treatments. Br Dent J. 2018.

一方で、繰り返し治療を行うことで 筋活動の再学習や表情の変化が生じる可能性を示唆する報告もあり、 短期効果だけでなく、長期的視点で治療計画を立てる重要性が指摘されています。


ヒアルロン酸注入は「思ったより長く残る」可能性がある

ヒアルロン酸注入は「半年〜1年で完全に吸収される」 というイメージを持たれがちですが、 近年の研究ではより長期に残存する可能性が報告されています。

ヒアルロン酸フィラーの持続性に関するシステマティックレビューでは、 製剤や注入部位によっては 24か月以上残存が確認されるケースがあるとされています。

Clinical Durability of Hyaluronic Acid-Based Dermal Fillers for Facial Application: A Systematic Review. J Clin Med. 2025.

これは「永久に残る」という意味ではありませんが、 一時的な治療として軽視すべきではないことを示しています。


「浅い層への注入」と肌質改善の考え方

近年、ヒアルロン酸を皮膚の浅い層に少量注入することで、 ハリ・質感・小ジワの改善を狙う治療も行われています。

ただし、浅層注入は

  • 適切な製剤選択
  • 注入量のコントロール
  • 解剖学的理解

が不可欠であり、 目的を誤ると不自然さや凹凸につながることも知られています。

このため、単に「流行っているから」ではなく、 将来の皮膚構造をどう保ちたいかという視点が重要です。

ヒアルロン酸注入:浅い層と深い層の違い

ヒアルロン酸注入は「どこに入れるか」によって、 目的も仕上がりも大きく変わる治療です。

比較項目浅い層への注入深い層への注入
注入する層真皮〜皮下浅層皮下深層・骨膜上
主な目的肌質改善、ハリ・ツヤ、小ジワ改善ボリューム補填、輪郭形成、支持構造の補強
効果の特徴・肌がふっくら見える
・質感が若返る
・顔立ちが安定する
・たるみ予防につながる
使われる製剤柔らかく拡がりやすい製剤硬さ・支持力のある製剤
リスク・注意点・入れすぎると凹凸や透け感が出やすい
・技術差が出やすい
・位置を誤ると違和感が出る
・将来を見据えた設計が必要
向いている人・肌の元気がなくなってきた人
・自然な若返りを求める人
・顔の凹みや骨格変化が気になる人
・輪郭を整えたい人

ヒアルロン酸は「浅く入れるほど簡単」「深く入れるほど安全」 というわけではありません。 目的に合った層を選ぶことが最も重要です。

ボツリヌストキシン治療:浅い層と深い層の違い

ボツリヌストキシン治療も、 「どの深さに打つか」によって 効き方や副作用の出方が変わります。

比較項目浅い層への注入深い層への注入
注入する層皮内〜皮下浅層筋肉内(標的筋)
主な目的皮脂・毛穴・浅い小ジワの改善表情筋の動きを抑える
効果の特徴・肌がなめらかに見える
・自然な仕上がり
・表情ジワがしっかり減る
・動きが弱まる
代表的な施術名マイクロボトックス、スキンボトックス通常のボトックス治療
リスク・注意点・効果は穏やか
・持続はやや短い
・効きすぎると表情が硬くなる
・左右差が出ることがある
向いている人・ナチュラル志向の人
・初めてボトックスを受ける人
・しっかりシワを止めたい人
・動きによるシワが強い人

ボツリヌストキシンは 「浅い=弱い」「深い=強い」という単純な話ではなく、 狙う筋肉と目的に応じた深さ選択が重要です。


10年後に後悔しないために大切な視点

医学的に見ても、美容医療は 即時効果と長期的影響の両方を考慮すべき医療行為です。

論文から読み取れる重要なポイントは、

  • ボトックスは一時的だが、繰り返し治療の影響は個人差がある
  • ヒアルロン酸は想定以上に長く残存する場合がある
  • 「将来どうなりたいか」を考えずに行う治療は後悔につながりやすい

「今きれいに見えるか」だけでなく、 将来の老化スピードをどうコントロールするか。 それが、美容医療を受ける上で最も重要な考え方です。


まとめ

ヒアルロン酸やボトックスは、 正しく使えば非常に有効な治療です。 しかしその一方で、 理解せずに受けると後悔につながる可能性もあります。

美容医療を選ぶ際は、 「何となく不安だから」「流行っているから」ではなく、 医学的根拠と長期視点を持って考えることが大切です。


参考文献(References)

本記事の内容は、以下の医学論文・総説を参考に構成しています。

  1. Wright G, Lax A, Mehta SB.
    A review of the longevity of effect of botulinum toxin in wrinkle treatments.
    British Dental Journal. 2018;224(5):255–260.
    美容目的におけるボツリヌストキシン治療の効果持続期間や作用特性についてまとめた総説。
  2. Steenen SA, et al.
    Long-term effects of repeated botulinum toxin injections in cosmetic indications.
    Journal of Cosmetic Dermatology. 2021.
    繰り返し行われるボツリヌストキシン治療の長期的影響について検討したレビュー。
  3. Alcolea JM, García-Monforte F.
    Controversies about botulinum toxin type A duration effect.
    Aesthetic Medicine. 2025;11(1).
    ボツリヌストキシンA型の作用持続や個人差について整理した最新の総説論文。
  4. Sundaram H, et al.
    Global Aesthetics Consensus: Hyaluronic Acid Fillers and Botulinum Toxin Type A.
    Plastic and Reconstructive Surgery. 2016.
    ヒアルロン酸フィラーとボツリヌストキシン治療に関する国際的コンセンサスガイドライン。
  5. Beer K, et al.
    Clinical durability of hyaluronic acid-based dermal fillers for facial applications: A systematic review.
    Journal of Clinical Medicine. 2025.
    ヒアルロン酸フィラーの持続期間や部位別特性を検討したシステマティックレビュー。
  6. Tamura T, et al.
    Serious complications of hyaluronic acid fillers: A retrospective analysis of over 290,000 cases.
    Annals of Plastic Surgery. 2025.
    ヒアルロン酸注入における重篤な合併症の頻度とリスクを解析した大規模後ろ向き研究。
  7. Wollina U, et al.
    Adverse effects of the aesthetic use of botulinum toxin and dermal fillers on the face.
    Journal of Cosmetic Dermatology. 2023.
    美容医療で使用される注入治療の副作用・合併症を包括的にまとめたナラティブレビュー。

※ 本記事は特定の治療効果を保証するものではなく、一般的な医学的知見を整理した情報提供を目的としています。 ※ 実際の治療適応やリスクは、個々の状態により異なるため、専門医との相談が必要です。

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