第5回:ケト×筋トレで筋肥大は可能か?

「ケトジェニック中に筋トレをしても意味がない」
「筋肥大したいなら糖質は必須」

これらは半分正しく、半分誤解です。

本記事では、

  • 筋肥大を制御するシグナルの整理
  • ケト環境下で現実的に起こる筋量変化
  • TKD・CKDという折衷戦略の位置づけ

を踏まえ、
「可能か否か」ではなく「どこまで可能か」
を明確にします。


AMPKとmTORの関係整理

筋肥大を語る上で避けて通れないのが、

  • AMPK
  • mTOR

という2つのシグナルです。

mTOR:合成スイッチ

mTORは、

  • 十分なエネルギー
  • アミノ酸(特にロイシン)
  • 機械的刺激(筋トレ)

が揃ったときに活性化し、

筋タンパク合成を促進する

中心的シグナルです。

AMPK:節約モード

一方、AMPKは、

  • エネルギー不足
  • 糖枯渇
  • 強い持久的ストレス

で活性化し、

mTORを抑制する方向に働く

シグナルです。


ケトジェニック環境下で何が起きているか

ケトジェニックでは、

  • 糖質供給が少ない
  • グリコーゲンが低水準

ため、
AMPK優位になりやすい
という特性があります。

つまり、

最大筋肥大に最適な環境ではない

これは事実です。


それでも「筋量維持〜微増」は可能か

ここで重要なのは、

筋肥大=大幅な増量
だけではない

という視点です。

ケトで現実的に起こる筋量変化

  • 初心者:筋量維持+わずかな増加
  • 中級者:ほぼ維持
  • 上級者:維持が上限

これは、

  • 筋トレ刺激
  • 十分なタンパク質
  • 過度なカロリー赤字を避ける

という条件を満たした場合です。

ケト中の筋トレの本質は、

「筋肥大」ではなく
「筋肉を減らさないための信号」

を入れることにあります。


TKD・CKDという折衷戦略

ここで登場するのが、

  • TKD(Targeted Ketogenic Diet)
  • CKD(Cyclical Ketogenic Diet)

という戦略です。

TKD:トレーニング前後だけ糖質

TKDでは、

  • トレーニング直前または直後に
  • 少量の糖質(20〜50g)を入れる

ことで、

  • mTOR刺激
  • トレーニング強度の確保

を狙います。

CKD:周期的にケトを外す

CKDでは、

  • 数日〜1週間ケト
  • 1〜2日高糖質

というサイクルを作り、

ケトの脂肪減少効率と
筋合成刺激を両立させる

という位置づけになります。


まとめ

ケトジェニックと筋肥大は、

  • 完全な対立関係ではない
  • しかし相性が良いとも言えない

という、現実的な関係にあります。

正しい理解は、

ケトは「削るフェーズ」
筋肥大は「積むフェーズ」

という役割分担です。

TKD・CKDは、
その境界をなだらかにつなぐための
上級者向けオプションと考えるのが適切です。


次回は、
「ケト解除でなぜ体重は戻るのか」
水分・グリコーゲン・脂肪を分けて整理します。

第5回まとめ:ケト×筋トレで筋肥大は可能か?

理解すべき項目誤解されがちな理解実際に起きていること結果として見える現象現実的な結論
筋肥大の条件高カロリーが必須機械的刺激+同化シグナル筋タンパク合成が起こる刺激が最優先
ケト下の筋肥大不可能条件付きで可能維持〜微増大幅増量は狙わない
mTOR常にONが必要刺激時のみで十分合成は成立するパルス活性が本質
AMPK筋肥大の敵慢性化しなければ問題なし分解は進みにくい背景ノイズとして共存
カロリー収支常に黒字が必要トントン〜微赤字でも成立体重は増えない体組成は改善する
タンパク質多ければ多いほど良い必要量で十分合成効率を維持過剰摂取は不要
筋トレ強度軽めでOK高重量・低回数が有利強い刺激が入る神経適応も重要
TKDケトを壊すトレ前後の限定糖質出力維持実用的折衷案
CKD失敗しやすい計画的リフィードmTOR刺激増上級者向け
最終結論ケト=筋肥大不可設計次第で可能締まった体型守りながら作る

補足:AMPKとmTORは「どちらが正しいか」ではない

AMPKとmTORは、しばしば「相反するスイッチ」として語られますが、 実際には敵対関係ではなく、状況に応じた役割分担をしています。

重要なのは、どちらが常にONかではなく、 「いつ・どの程度・どれくらいの時間」活性しているかです。

たとえば筋トレ中は、エネルギー消費によってAMPKが一時的に上昇しますが、 同時に筋繊維への機械的刺激によって、mTORは局所的かつ強く活性化します。 この「短時間のmTORパルス」こそが、筋合成を引き起こす本体です。

一方で、空腹や断食、強い糖質制限のように、 AMPKが長時間・慢性的に高い状態が続くと、 身体は「生存優先モード」と判断し、筋合成シグナルは抑制されます。 これは筋肉を削るためではなく、無駄な成長を止めるための合理的な判断です。

ケトジェニックや糖質制限が筋肉を失いやすいと誤解される理由は、 mTORが「常時ONであるべき」という前提に立っているためです。 実際には、筋肉は常に作られる必要はなく、必要な瞬間にだけ作られれば十分です。

つまり、筋トレによって適切な刺激を与え、 回復できる栄養と休息が確保されていれば、 AMPKが背景で働いている状態でも、筋量は維持され、 条件次第では微増さえ起こります。

AMPKとmTORの本質は「善悪」ではなく、 身体が今どの局面にいるかを判断するためのスイッチである。

状況別に見る AMPK と mTOR の働き

状況AMPKmTOR身体の判断筋肉への影響
筋トレ時一時的に上昇局所的に強く活性壊したから作れ筋合成ON
寝たきり・不活動低下低下需要なし筋萎縮
通常の食事時低〜中上昇エネルギー十分維持が中心
空腹・断食時強く上昇抑制生存優先合成停止・分解優位
糖質制限・ケト中程度刺激時のみ活性脂質で回す維持〜微増

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